術後のケア
ノンカムアウトでフルタイムを目指す方にとって、「見た目のパス」だけでなく「声パス」は重要なポイントの一つです。このページでの「声パス」は、主に手術を受けた方々に向けたものです。
頭声と胸声
ここでは頭声=「頭」に響かせる声、胸声=「胸」に響かせる声と定義します(声楽の用語とは少し意味が違います)。低い声・地声を出した時に首の下(胸のあたり)を手のひらで触れると響きを感じます。この状態が胸声、逆に高い声を出した時に鼻の根元が響く状態が頭声です。まずは「胸声ではない状態=首の下方が響かない状態」を目指して徐々に声の高さを上げ、響きがなくなってきた高さで出しやすい声を探してみてください。一朝一夕にできるものではないので少しずつ練習を。
術後の注意点
どちらの手術でも、術後は一時的に痰がからみやすくなります。3か月〜半年で治まる方もいれば、1〜2年続く方もいます。咳払いは声帯に負担をかけるため、大きな咳をしないよう注意してください。つらい時は内科で相談して薬を処方してもらうとよいでしょう。
回復を早めるには、発声禁止期間を過ぎてからなるべくたくさん話し、術後の喉に合った発声方法を探すことです。ただしうまく発声できないからと大きな声を張り上げるのは絶対にやめましょう。声帯に負担をかけすぎると声帯ポリープなど別の症状が出る可能性もあります。
術後は「今日は少し声が出しやすい!」→「今日はあんまり声が出ない…」を交互に繰り返しながら、3歩進んで2歩さがるような状態が続きます。「必ずいい声になる」という気持ちで、回復期間の精神面をポジティブに保つことが大切です。
腹式呼吸の練習
無理に声量を上げようとして喉に負担をかけると、声帯が炎症を起こしてかすれ声が長引くことがあります。腹式呼吸を使うと、声帯の負担を減らして大きな声が出せるようになります。ボイトレの先生に聞いた練習方法を2つ紹介します。
- 楽な姿勢になる(座っていても、横になってひざを立てても良い)。
- 体がしぼんでいくように、すべての空気を吐き出す。
- 苦しくなったらフッと力をゆるめる。「力を入れずに空気が勝手に入ってくる」ことが大事。
- 10回程度繰り返すと体がリラックスして腹式呼吸モードになる。
- 「お腹を軽く押し込みながら発声」→「空気を取り込む」を繰り返す。
- 息をゆっくり吸い込み、胸とお腹が大きく膨らむようにする。
- 息を止め、その後30秒かけて口からゆっくり吐き出す(口はくちばしのように)。
- 「胸をふくらませたまま、お腹だけをへこませる」練習をする。
- 慣れてきたら60秒、90秒と伸ばす(くれぐれも無理はしないこと)。
術後のカラオケ
経過が順調であればどちらの術後でもカラオケは歌えますが、「ある程度回復してから」という条件がつきます。ヤンヒーの術後は1年程度は抑揚がつけにくい状態が続くため厳しいとのことでした。ヨーサガンの術後は最低3か月以上経ってからOK(ドクター確認済み)。最初はくれぐれも無理をしないことが大切です。
高い声と低い声をバランス良く練習すると柔軟に抑揚がつけられるようになり、音域も徐々に広がります。「術前は裏声が出せたのに術後はうまくいかない」という方は、喉を緊張させすぎている可能性もあります。
術後のキズ
首は体の中でも回復が遅い場所で、体質によってはケロイド状の傷になることがあります。どちらの手術も大きな傷跡ではなく、化粧でごまかせる程度のものです。1〜2年経てば気にならないほどになると思いますが、体質によってさらに長期間かかることもあります。手術後は首をひねらない方がキズ口がよれず綺麗につくそうですから、落ち着くまでの2〜3週間は「なるべく首と体を一体化」させて行動してみてください。首を動かすことが多い車の運転なども控える方がよいでしょう。

声帯癒着について
ヨーサガンの手術後に声帯が半分近くまで癒着した方が何人かいることが分かっています。声帯が短くなるのでより高い声になりそうですが、実際には癒着部分が大きくなると「なかなか声量が上がらない」「かすれ声の症状が強く出る(息が漏れる)」という特徴が出るそうです。
声帯の癒着は慢性的な炎症や逆流性食道炎などでも起こります。現段階では、癒着した方々の術前・術直後の声帯写真がないため、原因が手術であると断言できる状態ではないことをお断りしておきます。かすれが強い場合の代表的な治療は「癒着部分を切り、あいだにシリコンの小さな板を3か月〜半年挟んで再癒着を防ぐ」というものです。切ると声帯の長さが戻るためピッチは低くなり、声質が変わることもあるそうです。
アレルギー体質、キズの治りが悪い体質の方で、術後1年〜1年半以上経ってもかすれが改善しない場合は、一度最寄りの音声外科を受診されることをおすすめします。日常生活や仕事に支障がなければ、癒着を切る手術を受ける必要はありません。


声が元に戻る?
ヤンヒーの手術では、声帯じん帯が将来伸びることを考慮してかなり強く引っ張るため、術後の声は超裏声状態に近くなっています。元の声に戻る可能性としては「軟骨を結んでいる糸が切れる・ほどける」「声帯じん帯が伸びて声が低くなる」が考えられますが、現段階でTSGCがこのようなケースを確認したことはありません。
ヨーサガンの手術では声帯じん帯と甲状軟骨の一部を切除するため、一旦手術をすると元の声に戻すことは不可能です。どちらの手術でも、加齢による筋力の衰えで声が低くなることはあります。